VANUATU  バヌアツ

 

こんな僕でも、実は密かに “ソロアルバム” なんぞというものを、出したことがある。

1993年の暮れ・・・・・
ニューカレドニアに住む友人と話しをしているとき、ひょんなことから
彼の口から気になる言葉が出てきた。

 

「ヴァヌアツっていってな
ニューカレから500キロほど行くと、島がいっぱいある国があるんやけどな。
俺この前行ってきたけど・・・・死ぬで。
活火山の火口まで歩いていって、手すりもなんもないとこで、
下をのぞき込むと、マグマがグツグツ煮えくりかえってるのが見えるし、
いつ噴火するかもわからん。
何分かおきに小さい噴火があるけど、その音たるやこの世のものとは
思えん。膝も笑ってしまって・・・・・・。
恐ろしい。」


へぇ~という顔で頷いていると、彼は真顔になって言ったんだ。
「本当だって。」


「あと、その島には野生のジュゴンが1頭、入り江に住み着いていて
子供たちが遊んでると、必ずやってくるんよ。
これがメチャクチャかわいい・・・・。」


行ってみたい!


即座にそう思った。

プロデューサーに掛け合って
ソロアルバムのコンセプトとしてそのジュゴンを使い
しかも絵本まで創ることを了承してもらい
さっそく制作に取りかかった。

 

 

“タンナ島の海に住むジュゴンは 実は昔その島に住んでいた 体の弱い少年だった”

という始まりの物語にして
シナリオは宮本亜門さんに書いて貰うことになった。
こうして準備は少しずつ進んでいった。



日本からの直行便がないので
一度ニューカレドニアにはいってからヴァヌアツに飛ぶ。
タンナ島行き直行便も無いため
やっぱり一度エファテ島のポートヴィラでセスナに乗り換え
約1時間のフライト。
タンナ島の滑走路は草原だ。
パイロットも慣れたもので、何の問題もなく降り立つ。
ほったて小屋のような空港の建物。
見送りなのか出迎えなのか見物なのかもわからないが
何人かの人々が集まっていた。


 

この島にも、一応“リゾートホテル”なるものが、一軒だけある。
ボクの泊まった部屋は、波打ち際からほんの数メートル離れたところにある
野性的なバンガローだった。
窓はなく、真っ暗な部屋。 
今にも波に呑み込まれそうな感じがして、
ちょっと怖かった・・・・・。


裸族の住むカスタムヴィレッジという“村”に行き
“歓迎の踊り”を披露してもらった。
ここにはメラネシア人たちの生活や祭り・習慣など
昔からの伝統が今も保存されているのだ。
楽器は何も使わず、ただ声と足踏み
手拍子だけのシンプルな音楽なのだが
胸にビンビンと伝わってくる。
なんだかわかんないけど、涙が流れた。

 

 


話に聞いていた以上に、活火山の“ヤスール”はすごかった。
“膝”が本当に“笑って”しまったのだ。
あの地獄からの叫びのような、大地の怒りが噴き上げてくるような大轟音とともに
目の前まで飛んでくる岩・・・・。
すべてを闇に埋めてしまいそうな噴煙・・・・・・。
「いつ大爆発しても、おかしくないんだよ」
地元のガイドは笑いながらそう言った。
残念なことに、ボクたちが行った1ヶ月後
実際ヤスール山は大爆発を起こし
日本人を含む数人の方が亡くなってしまった。


日本のテレビ番組で何度か特集を組んでいたけれど
一番おもしろかったのは
ポンキッキのなかで、ガチャピンがジュゴンと遊ぶシーンだ。
実は、その時ガチャピンの中にはいっていたのは
ボクの友人だったんだ。
ダイビングのインストラクターで、ニューカレドニアに4~5年住んでいて
ボクが初めてニューカレドニアに行ったときに知り合ったんだ。
その後東京でダイビングショップを開いたんだけど、
ボクがライセンスを取ったとき、教えてくれたのが彼だった。

ジュゴンは手加減なんかしないでガチャピンに体当たりしていくんだけど、
その都度彼は着ぐるみの中で
「うっ」「いてっ」「このやろー」などと唸っていたらしい。
テレビのオンエアー上では、すごく仲良くジュゴンと遊んでいるように見えた。
すごく楽しかった・・・・・。(笑

 

 

そのジュゴンとの感動の出逢い・・・・・・。

地元の子供たちに頼んで、ジュゴンを呼び寄せようとしたのだが
1時間近くたっても姿を現さない。
諦めかけていたとき・・・

「来た!!」

子供たちが叫んだ。
広い入り江を、遠くからゆっくりと泳いでくるジュゴンの姿が見えた。

やっと逢えた・・・・。

愛しい恋人にでも逢ったかのような感動が込み上げてきた。
思わずジュゴンに近寄り
『来てくれてありがとう』
と体をなでてあげた。

しばらく同じ時間を過ごし、名残惜しみながらジュゴンに別れを告げた。

 

 

ジャケット写真の撮影も兼ねて行ったので
その後もいろんなところでロケをした。

地元の子供の顔のアップが、ジャケットの表紙になっているんだけど
道を歩いているときに偶然見つけたかわいらしい子だった。
少しはにかみながら、カメラを見つめていた。

どこに行っても、いつも子供の“目”って澄んでいて美しいなぁと思う。
ピュアーであることってすごいことなんだよね。


ジャケットをクリックしてね


「天国にいちばん近い島」という映画でも話題になった
ニューカレドニアのウベア島。
いくつかの美しい南の海を見たけれど、空港からの車の中から見たこの海は
想像をはるかに超えていた。

“美しい”という程度のものではない。

雪のように白いパウダーサンドのビーチから
紺碧の空へと続く青のグラデーションは、
およそこの世のものとは思えない。
そのビーチに大の字になって倒れている写真も
ジャケットの中に収められている。

この島はボクたちが行く直前までの数年間
政治的な問題で住民たちの間に大変な確執があり
時には抗争も起き、危険なため旅行者は入れなくなっていた。
だがボクたちが旅のスケジュールを練っているとき
突然解決したらしい。

ほんとラッキーだった。

 

 

仕事にかこつけて行かせてもらったこの旅は
未だに過去最高の想い出のひとつとして
脳裏に焼き付いている。
タンナ島のカスタムヴィレッジで逢った酋長さん
元気かなぁ・・・・・